遠山 正道
「1日広報社員」逆納品レポート
〜オリエンタルカーペットより〜
― 今回のお客様について ―
商品 |
1日広報社員 |
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ご購入者 |
オリエンタルカーペット 山形緞通 |
お客様について |
東北・山形県の山辺町で「じゅうたん」を作り続けている、創業83年目のじゅうたんメーカーさんです。 |
いつもよりすこし早く、真夏の日差しが照りつける7月の半ば。東北・山形県にある人口1万5千人の小さな街、山辺町(やまのべまち)を、遠山正道さんが訪れていました。
はじめまして。オリエンタルカーペットと申します。この山形県山辺町で「じゅうたん」をつくっている、じゅうたんメーカーです。
1935年よりじゅうたんの製造をはじめ、2013年からは自社ブランド「山形緞通」を展開。今年で創業83年目を迎えました。
今回、スマイルズさんの「業務外業務 -WORK WITHOUT WORK-」を通じて、遠山さんに私たちオリエンタルカーペット・山形緞通の1日広報社員」として、山形の工場までお越しいただきました。
早朝からたっぷりと時間をかけて、朝礼への参加、ものづくりとじゅうたんの見学ツアー、職人たちへの取材、事業展開のアイディアブレストなど、たくさんの業務にお取り組みいただく1日となりました。
終盤には、遠山さんご自身が描いたデザインスケッチと共に、「こんなじゅうたんは、つくれませんでしょうか?」と、ご提案をいただく場面も・・・・。
とても楽しく、笑顔の絶えない時間、そしてこれからなにかが起こる予感満載の時間が、終始流れていました。
元々ひどい雨の予報だった天気が嘘のように晴れたのも、そんな「いい時間」を表していたのかもしれません。
遠山正道さんによる、オリンタルカーペット・山形緞通の「1日広報社員」。今回は、この業務を依頼させていただいた私たちからの「逆レポート」です。どうぞお楽しみください。
はじまりのスピーチを。
朝8時、始業前で活気立つ工場に、「みなさん、朝早いですねー!」と、遠山さんが到着。そのまますぐに、朝礼へと向かっていただきます。
毎週金曜日の朝に行なっているこの朝礼ですが、今回は「1日広報社員」に合わせ、特別編として実施。いつもの朝礼内容に加えて、遠山さんから「はじまりのスピーチ」をいただきました。
人生100年時代と言われる今、これからどうやって自分たちは生きていくのか、どうやって働いていくのか、どうやって日々の悦びや生きがいを見出していくのか。「業務外業務-WORK WITHOUT WORK-」をはじめた経緯や想いについて、じっと耳を傾ける社員たち。
窓から朝日が柔らかく差し込む中、いつもとすこし違う、好奇心にちょっとの緊張感が入り混じった、凛とした空気が流れます。今、この朝礼に参加して、この雰囲気の中に身を置いていること。もうこの時点から、きっと今日はおもしろい1日になると確信しています。楽しみです。
そうスピーチを締めくくって、「1日広報社員」のスタートです。
じゅうたんは、小口の集合体なのか。
まずは、ものづくりとじゅうたんの見学ツアーを。弊社代表・渡辺の引率の下、工場をぐるりと回ります。
クリエイティブディレクター佐藤可士和さんデザインの『TAIYO』を見て、足を止める遠山さん。「これは・・・・。円の部分が、光って見えますね」と、じゅうたんの色味の、細かなグラデーションをチェック。
「この表現は、糸の染色技術によるものです。基本色となる白い糸を、すこしずつ染色の異なる微妙なグラデーションで用いることで、皆既月食のように光って見えるんです」
そう説明する渡辺に対して、「なるほど。これは自社染色だから実現する技術なのでしょうか?」と、遠山さんが尋ねます。
「そうですね。じゅうたんに使う糸の染色って、ごまかしが効かないんです。なぜかというと、みなさんが触っているじゅうたんの面は、すべて糸の断面なんですよね。細かい糸の断面のひとつひとつが、面となって全体を形成している。その細かな断面にブレがないように染色するのは、非常に高度な技術が求められます」
それを聞いた遠山さんは、「そうか。これはすべて、小口(切断面)なんですね。じゅうたんは、小口の集合体なのか」と、発見した模様。
たしかに、「じゅうたん=糸の切断面の集合体」そう考えると、まるで無数の糸1本でできた、生きものみたいですね。
デザイン室に入り、じゅうたんの設計図面や、デザイン組みの工程について、説明を受けます。「このじゅうたんは、昨日みなさんが宿泊された、かみのやま温泉の『古窯』さんに収めているものです」と伝えられて、「こんな全体像になっていたんですか! これは上から俯瞰しないと分からないな・・・・」と、びっくり。
それは本当にゴミなのだろうか?
今度は「手刺し」と呼ばれる工法を用いた、「クラフトンカーペット」の実演にチャレンジです。
フックガンと呼ばれる専用の電動工具を使って、基布(綿のキャンバス)に、ウール糸を打ち込んでいきます。
「これは難しい!」と、工具の扱いに苦戦する遠山さんですが、職人のアドバイスを聞きつつ、とても楽しそう。
その後、先ほどチャレンジした「クラフトンカーペット」の製造過程で発生する、カットされたウール糸を発見します。
「これは綺麗ですね。いつもどう処理されているんですか?」今は特に用途がなく、そのままゴミとして廃棄していると答える渡辺に、「なるほど。このグラデーションはすごく綺麗だから、なにかに使えそうですよね」と、アドバイス。
私たちが普段、用途を見出せず、当たり前のように廃棄していた素材から、インスピレーションを得た遠山さん。
「じゅうたんをつくる過程で生まれる素材という点で、すでにストーリーがありますよね。アート作品になるかもしれないし、雑貨になるかもしれない。ウールの素材として考えれば、ダウンジャケットのような洋服の中身に使えるかもしれない」
なるほど、こういう物事の見方があるんですね・・・・。とても勉強になります。こちらのウール糸は「お土産」として、東京に持って帰られました。
やっぱり、みんながじゅうたんを好きなことだと思います。
次に、ものづくりを担う職人たちへのインタビューです。今回インタビューを受けたのは、3人。
全製造工程の責任者、取締役・製造部長の鈴木孝さん。じゅうたん一筋60年のキャリアを持つ、76歳現役最年長の職人、森谷うり子さん。確かな技術を持つ若手職人の鈴木舞さんです。
遠山さんとスマイルズのみなさんでの囲み取材。最初はすこし緊張と硬さがありましたが、お互いの話をやり取りする中、徐々にリラックスした雰囲気へ。
「オリエンタルカーペット・山形緞通のいちばん強いところは、どこなのでしょうか?」という問いに、「やっぱり、みんながじゅうたんを好きなことだと思います」と、即答した鈴木(孝)さん。
「もちろん仕事だし、生活の糧ではあるのですが、それ以上にみんな、このものづくりが好きだという想いが心の中にある。私も色んな産地を見て回りましたが、これは特別なものですね」と、誇らしげな表情で話してくれました。
「この歳になっても、みんなから声をかけてもらえること。まだこうやって働けること。それがうれしくて、うれしくて・・・・。ワクワクして、いつも会社に早く来ちゃうんです」
インタビューを進めていくうちに、今まで蓄積された想いが溢れ出して、目に涙を浮かべながら、たくさんのエピソードを教えてくれた森谷さん。
「最初は、こうしたものづくりを続けている会社が山形にあるのを、知らなかったんです。入社した後、じゅうたんをつくるってこんなに大変で、おもしろいことなんだと知りました」
はじめての取材で、ちょっと照れながらも、実直な言葉で話してくれた鈴木(舞)さん。
「じゅうたんを織るのが上手だと伺いました」と伝えると、「いやいや・・・・。がんばります」と、はにかみながら答えてくれました。
普段、なかなか自分たちだけでは話す機会のないエピソードや想いが、ふっと顔を覗かせる場面が多くあり、私たちにとっても、新鮮な取材となりました。
私が欲しいと思うじゅうたんは・・・・
これにて、工場見学と取材は終了。ここからは、弊社代表の渡辺と遠山さんで、ものづくりを体験した感想と、今後のオリエンタルカーペット・山形緞通の事業展開について、ブレストやディスカッションを行いました。
「まずは、素晴らしかったです。この手入れの行き届いた工場も、大切にされてきた建築も、積み重ねてきた歴史と伝統も、山形緞通のじゅうたんに注ぎ込まれている手間暇も技術も、見事。これはもう、間違いないです」
そのうえで、「ただ・・・・」と前置きをしつつ、遠山さんはこう話してくれました。
「もうこの際、自分が感じたことを包み隠さず、すべてお話させてください。というのも、工場を今日1日回っても、私が欲しいと思うじゅうたんは、1枚もなかったんです」
「商品として上質、積み重ねてきた歴史と伝統がある、携わっているクリエイターも超一流。これらはすべて、理解しています。ただ、今の自分たちの暮らしぶりというのは、『モダン』であったり『かわいい』であったり、そういった暮らしや住まい、価値観へと変化してきている」
「その文脈に照らすと、今日お見せしてもらったじゅうたんは、自分の感覚には合わなかったんです。商品が良い悪いではなくて、じゅうたんに求められている役割が、時代と共に変わってきているのだろうと思います」
「今までの『じゅうたんとはかくあるべき』、『じゅうたんの用途とはかくあるべき』といった常識から、離れてみると良いのかもしれません。たとえば、『記号』としてのじゅうたん。具体例を挙げると、我々は瀬戸内の豊島にある『檸檬ホテル』という泊まれるアート施設で、レモンに着せるニットセーターを販売しているんですね」
「これ、お客さんに見せた瞬間、『キャー!可愛い!!』と言ってもらえるんです。レモンに着せるセーターなんて、必要性から生まれたものではないし、機能として優れているのかと言われても、なんとも言えません(笑)」
(檸檬ホテル公式Facebookより)
「でも、このセーターを見せた瞬間に、『キャー!可愛い!!』が生まれている。用途や機能を超えた、心の動きが生まれている。こうした心の動きを世の中に生み出すことにこそ、価値があると思うんですね」
「時代や価値観が変化していく中、今じゅうたんに求められているものはなにか。たとえばそれは、用途や機能を超えた、『記号』的なものだったりするのかもしれない。そういった視点が、今あるオリエンタルカーペット・山形緞通のクラシックなものづくりと価値観に加えて、これから大事になってくるのではないでしょうか」
「また、技術の面でも、今の売りや強みにしている点と、あえて真逆に振り切ってみるのも、ひとつの手ではないかと思います」
「これだけ染色とグラデーションの技術があって、2万色以上の糸が、歴史と共に会社に蓄積されている。だからこそあえて、『無地』に挑戦してみるとか」
「日本でいちばんグラデーションにこだわってきたじゅうたんメーカーがつくる、『究極の無地のラグ』。どうです? ワクワクしませんか」
この工場で紡がれてきた技術、積み重ねてきた歴史や伝統、ものづくりと商品の質は、誇るべきものだと伝えてくれた遠山さん。
そのうえで、これからの事業展開を考えたとき、今までの常識や慣習といったものを意識的に打ち破っていく必要があるのではと、ご意見をいただきました。
用途や機能にしばられない、消費者の「心」が動くじゅうたん。あえての真逆のアプローチ。それらを社会と紐づけるストーリーテリング・・・・。いただいたどのアドバイスも意見も、私たちの心に深く残りました。
そして、ディスカッションも終わりの時間にさしかかる中、遠山さんからなんと、「こんなじゅうたんは、つくれませんでしょうか?」と、ご提案がありました。
休憩時間を使って、スケッチブックにパステルで、特大の「りんごのじゅうたん」をデザインしてくださっていたのです。この展開には、渡辺もびっくり。
「形が変形している分、すこし手間がかかるかもしれませんが、先ほど体験していただいた『手刺し』の工法であれば、つくれると思います。・・・・うん、おもしろそうです。一度サンプルをつくってみます!」
「ほんとですか! うれしい!!」。今日いちばんの笑顔を見せる遠山さん。
渡辺も、ここに至るまでのブレストやディスカッションを経て、俄然やる気で、即決でした。
手紙を贈ります。
予定していた業務のすべてが、無事終了。最後に社員みんなを集めて、「1日広報社員」の「おわりのスピーチ」を行いました。
遠山さんは、今日1日の感想をしたためた、直筆の手紙を持参。「せっかくなので、この場ですべて読んでみます」と、書き終えたばかりの手紙を読みあげてくださいました。
”オリエンタルカーペットさま、この度は1日社員ご用命、ありがとうございました。そして、1日社員である私が、感動しっぱなしの1日となりました。先ずは、この場所・建築・伝統・技術・手間ヒマなどなど。”
”かつてあった日本の良さが、全てそのまま継続されている。本当に貴重なことが、ここに存在しているのだと思います。”
「・・・・ちょっと字が汚くて、読めませんね(笑)。」
途中で読みあげるのにつまずく遠山さんと、その冗談にクスクス笑い声をもらす社員たち。朝礼で「はじまりのスピーチ」を行なったときとは異なる、ゆったりとした空気がそこに流れていました。
それはきっと、この1日を通して、私たちと遠山さん、スマイルズのみなさんとの関係がより柔らかく、しなやかなものへと変化したことを意味していたのかもしれません。
”ずっとずっとこの工場が、元気であること。そんなことになったら、いいですね。1日社員をさせて頂き、とても良い体験となりました。ありがとうございました。”
感謝のことばで、手紙を結んでくださった遠山さん。こちらこそ感謝を申し上げたい気持ちで一杯なのですが、お互いに「今日この時間に、ありがとうございました」という想いで、無事に全日程が終了となりました。
「1日広報社員」をお願いしてみて。
今回、この「業務外業務 -WORK WITHOUT WORK-」で、遠山さんに「1日広報社員」をお願いすることができ、本当に楽しく、刺激に富んだ、充実した時間を過ごさせていただきました。
まずはとにかく、この山形の地で、私たちのものづくりを直接見ていただいたこと。
2時間を超える工場見学ツアーに、キラキラとした好奇心と、真剣な表情で臨んでくださった遠山さん。それがなにより、うれしかったです。
普通は気づかない、気に留めないような細かな技術や表現に対して、ご感想をいただいたこと。工場が綺麗だと褒めてくださったこと。社員それぞれから、会社に対する愛を感じると伝えてくださったこと。それぞれ、大きな勇気をいただきました。
次に、私たちだけでは気付けなかった課題や価値を発見できたこと。
特に、これからより多くのお客さま(消費者)にじゅうたんを届けるためには、今までのじゅうたんの「こうあるべき」を、打ち破るタイミングが来ているのではというご意見に、大きな刺激を受けました。
用途や機能にしばられない、消費者の「心」が動くじゅうたん。グラデーションの技術に自信を持つメーカーだからこそ取り組む価値が増すであろう、「無地のじゅうたん」
ゴミとして廃棄していた、カット済みウール糸の生かし方。それは捉え方を変えれば、アート作品にもなり得るし、雑貨にもなるかもしれない。ダウンジャケットの中身にだって、なるかもしれない。
1日の中で行なったブレストやディスカッションを通して、自分たちだけでは拡張できなかった世界やアイディアが、たしかに生まれていくことを感じました。
そして最後に、この1日広報社員をきっかけに、実際になにかが始まりそうなことです。
実は、遠山さんからご提案いただいた「りんごのじゅうたん」の制作に、もう取りかかっています。
83年の会社の歴史の中でも、類を見ないほど「ポップ」で「変わった」じゅうたんですが、この特大のりんごを完成させて、みなさんに報告ができたとき、またその先にあたらしい景色や展開が待っている。そんな気がしてならないのです。
どうぞ完成を、楽しみにお待ちください。
ありがとうございました。
1日でこれだけ濃密な体験ができ、あらためてスマイルズさんの「業務外業務 -WORK WITHOUT WORK-」という事業のユニークさや、それを起点とした繋がり・あたらしい仕事が生まれる可能性を、「ユーザーとして」ビシビシ感じました。
大変お忙しい中、山形の小さな街まで足を運んでいただいた遠山さん、スマイルズのみなさん。本当にありがとうございました。
最後に、遠山さんからいただいた手紙を、この場で紹介させていただき、「逆レポート」を結ばせていただきます。この度は「1日広報社員」、誠にありがとうございました。
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